私もこのクリニックに通う患者さんと同じ女性で、2人の子どもの出産経験もあります。だから患者さんの気持ちはよくわかるんですね。今回のケースでは、患者さんのプライバシーをしっかりと確保することが一番のポイントでした。そのためにまず、患者さんの動線とスタッフさんの動線を完全に分離しました。医療施設の設計において、この2つの動線は絶対に交わらないのが基本。これは私が常に心掛けている点でもあります。
さらに、クリニックのエントランスを入って左右の空間に保険診療と自費診療の待合を分け、妊婦さん用の「中待合」も診察室に程近い場所へ設置しました。受付と待合との間はもちろん、患者さん同士の間にも必要な距離をとることで、リラックスできる空間を実現できたと思います。

正直なところ、今回のプロジェクトでは作り手としてのストレスはほぼありませんでした。というのも、院長が患者さんに対し、非常に明確な医療方針やホスピタリティをお持ちで、打ち合わせを重ねてもそれがブレる、ということがなかったからです。方針やイメージがブレてしまうと、プランがどんどんひっくり返ってしまいますからね。
たとえば、最初は「待合を広く」「診察室を広く」というところからスタートする。これは理想ですよね。でも、打ち合わせを重ねるごとに「やっぱり採算が合わないからもう少し狭くてもいいや」「スタッフルームをなくそう」というようにしわ寄せが来て、だんだん理想とはかけ離れたプランに変化していく、といったケースがあります。せっかく改装するのに、誰も幸せになれないですよね。
このクリニックで、これだけ余裕のある待合のゾーニングを実現できた背景には、徹底した診療スタイルがありました。こちらでは、患者さんをお呼びする際、受付のスタッフが直接患者さんのもとへお声掛けに行くそうです。マイクやスピーカーを使うのはもちろん、大きな声で患者さんのお名前や受付ナンバーをお呼びすることは、ホスピタリティ面からも論外、とのお考えでした。
どのエリアにおいても、こうしたスタイルが確立されていたため、2~3回目のプランでほぼゾーニングができていました。これは今まで担当してきた案件の中でも、異例の早さでしたね。
院長先生が「新しいもの」「本当にいいもの」を好む方だったこともあり、新しくグレードの高い素材をたくさんご提案できたことですね。しかも、そのご提案をほぼそのまま受け入れていただけたので、非常に完成度の高い仕上がりになりました。ちょうど図面などの計画がひととおりまとまって、素材の選定に取り組めたのが内装材の新作展示会の時期で、ほぼ新商品の中からすべてご提案させていただくことができたのも幸運だったと思います。
「スタッフの声を取り入れたい」という院長のご要望もあり、インテリアや家具、什器などを実際に決めていく段階では各エリア・ポジションで働くスタッフさんごとに打ち合わせを行い、こちらからお出しした2~3案の中から選んでいただく、という形を採りました。当初、「ワークスペースや職域が違えば、セレクトにもばらつきが出てしまうのでは?」と危惧していましたが、最終的に出来上がった全体像は、見事なまでに統一感がありました。これは、院長だけでなく、すべてのスタッフの間で、患者さんに対するブレないスタンスが根付いていたからでしょうね。
私がデザイナーとして私がお手伝いした部分もありますが、スタッフさん側の意見や想いもたくさん込められた結果、想像以上のものが出来上がったのだと思います。

サイン工事から家具や什器、壁紙、床材など素材の選定、設計、施工というところまで、空間をトータルプロデュースできた点でしょうね。だからこそ、あれだけ高い完成度を実現できたのだと思います。これは三井デザインテックならではの総合力あってのことでしょうね。
私はデザイナーとして、「癒し」「くつろぎ」といったクリニックのテーマに合わせ、できるだけ自然を感じられる空間づくりを行ったのですが、単なる「いいデザイン」「イメージどおりのデザイン」に終始し、満足していたわけではありません。たとえば物件の構造上、どうしても大きな柱が待合と診察室の間に来てしまい、図面で見ていても非常に圧迫感がありました。それを敢えて、周囲の壁と同じ白い壁紙でつないでしまわず、淡いグリーンの壁紙にすることで目立たせたのです。この小さな工夫により、邪魔だった大きな柱の圧迫感を解消するだけでなく、ちょっとしたアイキャッチとしての魅力を持たせることもできました。
また、院内には妊婦さんが血圧・体重を計測するスペースがあるのですが、このコーナーは「セミオープンにしたい」という院長先生の要望を受け、木目調のシートを貼ったアルミルーバーを使用しました。このルーバーにより、妊婦さんに圧迫感を抱かせることもなく、プライバシーも守られています。このコーナーの裏側は待合に面し、マガジンラックを兼ねた棚となっており、クリニックオリジナルのハーブティーやウォーター・サーバーを置いていただけるようにしました。さらにマガジンラックの中は収納となっており、TV・DVDのチューナーなど、機材がすべて収納されています。
「こういうスペースをつくりたい」「こういう問題をなんとかしたい」とご相談を受けた際、ただその願いを叶えたり、課題を解決したりするだけでなく、何かひとつでも自分らしい工夫を織り込むこと。これが私のスタイルです。














































